俗説に惑わされない!「異常気象」と「気候変動」のわかっていることいないこと
タイトルは多少刺激的に書きましたが、実際、「気候変動」や「異常気象」の周辺には訳知り顔に証明されていないことを事実のように語る人がたまにいます。
世界には不思議なこともたくさんありますし、わかっていないこともたくさんあるのですが、これまでに明らかにされてきたことも膨大にあります。それが人類の進歩であり、先人たちが生涯をかけて解き明かしてきたことなのですから、多少の勉強なしには「ひとことで」それを理解できるなんてことはないのです。
自分の本業の関係で、このたび「異常気象と気候変動についてわかっていることいないこと」という本を共同で執筆しましたが、本書はこの「わかっていること」の最前線と、「わかっていないこと」つまりはいま研究者たちが立ち向かっている困難について書いた少し堅めの一般書です。
日本を取り巻く気候変動と異常気象について、話半分ではなく多少なりとも理屈をご存知になりたいかたには、ちょうどよい本かと思います。
日本をとりまく気候のピースたち
最初にことわっておかないといけないのは、本書は地球規模の温暖化や、オゾンホールなどといったテーマは扱っていないという点です。そのあたりについてはよい入門書がたくさん存在しますので、また別の機会に紹介してみようかと思います。
むしろ本書の最大の特徴はこの図に集約されています。ちょっとみにくいのですが、この図は大西洋からユーラシア大陸を経て、一番右に日本をみたときに、いかに広い領域の現象が日本の気候に影響しているかを表現しています。
熱帯の雲の活動から、ジェット気流の大規模な蛇行、あるいは北極海の海氷などといった、遠い場所の変動が、日本に実に大きな影響を及ぼしていることがいまでは明らかになっています。「わかっていること」は実に多いのですね。
本書はこのように「日本」を中心としてみたときの異常気象と気候変動のピースを、それぞれの専門家が解説するという構成をとっています。
私が担当したのは「寒波」の章です。冬に繰り返しやってくる寒い空気の源は? 最近寒い冬が多いけど、温暖化はどうなってしまったの? といった話題に触れています。
これ以外にも、「熱帯と異常気象」「偏西風の蛇行と異常気象」「日本の雪」「大気汚染と気候変動」「大気紫外線と気候変動」といった話題が登場します。
キーワードでみると、PM2.5、冬季季節風、エルニーニョ現象、ブロッキング現象など、それぞれに専門家集団がいるテーマを包括的に扱っています。
気になる難易度ですが、やはり「わかっていること」と「わかっていないこと」の境界を攻めているだけに、慣れない表現や概念などが登場しますし、漫画的なポンチ絵は少ない、多少堅い内容になっています。
しかし数式などはでてきませんし、著者たちが互いに査読をして内容を損なうことなく平易な表現になるようにだいぶ手を入れましたので、一般読者が読んで問題ないはずです。高校生なら読むことができるでしょうし、熱心な中学生でも読みこなすことは可能でしょう。
共著者の一覧をみていると、実は大学でともに学んだ人々が複数人、そしていつも学会でおつきあいのある人々が一同に介しています。肩書がものものしいので、とてもそうは思えないかもしれませんが、けっこう学会的にみると若々しい本に仕上がっているのです。若々しい = 突っ込みどころが多い。でもそれでこその最前線ですから!
生きていれば気象の影響をうけないわけにはいきません。そして一生の間には私たちは気候変動の影響に触れることも数多くあります。そんな空の話を読んでみたいというかたはぜひお手にとってみてください。
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