単語 "Only" を任意の場所にいれるだけで解釈が8通りに変化する英文
英語は、たとえば性・数の一致や、複雑な活用形が存在する他の言語に比べれば、相対的に簡単な言語だといわれています。しかし簡単であるために、曖昧さが残る言葉でもあります。
以前、自然言語認識を手がけているエンジニアに話をうかがった際に、日本語のほうが英語に比べれば開発が楽だといわれて驚いたことがあります。その理由は、日本語に比べて英語のほうが、簡単な文であればあるほど、解釈の余地が残るからなのだそうです。
ほんの小さな単語の位置の違いでも解釈が変わる英文の例がブログ Boing Boing で紹介されていたのですが、なかなかの頭の体操になっています。
任意の場所に Only を入れるだけ
その文章は、“She told him that she loved him” 「彼女は彼を愛していると彼に告げた」という文章です。しかし、ここに任意の場所に Only を入れるだけで意味が変化していきます。
1. Only she told him that she loved him
“Only she” が主語になって「彼女だけが彼に愛していると告げた」に。
2. She only told him that she loved him
“only told him” で「ただ〜告げた」という意味になるので、これは「彼女は彼に愛しているとだけ告げた」に。他にはなにも言わなかったという含みがあります。
3. She told only him that she loved him
“only him” が対象となるので、これは「彼女は彼にだけ愛していると告げた」になります。他に大勢の人がいるなかで、彼にだけという含みがあります。
4. She told him only that she loved him
Only の場所のせいでひときわ曖昧さが目立つ文です。“him only” でひとまとまりなら「彼女は彼にだけ、愛していると告げた」で3に近くなるのですが、2に近い意味で読む人もいることでしょう。
5. She told him that only she loved him
“only she” が that 節にかかっているので、「彼女は彼に、彼女だけが彼を愛しているのだと告げた」になります。
6. She told him that she only loved him
“she only loved” で「彼女は彼に、彼女が彼をただ愛しているだけなのだと告げた」つまり、愛する以外の他の感情がないという意味合いで使っています。
7. She told him that she loved only him
“only him” なので、「彼女は彼に、彼のことしか愛していないと告げた」になります。
8. She told him that she loved him only
“loved him only” と倒置的に配置しているだけで、これも 7 と同じ「彼女は彼に、彼のことしか愛していないと告げた」という意味になりますが、only が最後になることで独特な詩的な余韻が生まれます。
私は文法の専門家ではないので、多少間違っている所もあるかもしれませんが、面白いのは 1) どの部分に only を入れても文章がちゃんと成立すること、そして 2) 場所によって only の意味が彼女だけ、彼だけ、彼にだけ、ただ単純に、といった意味の変化が生じて文章の解釈自体が変わることです。
元記事のタイトルは “English is weird” 「英語って変だ」なのですが、こうした曖昧さや、ほんのすこしの変化によるデリケートな解釈の創出があるからこそ、日常言語にも芸術的な言語としても耐えられるともいえます。
ここの翻訳は伝わりやすいように逐語的にしていますが、同様の文章を日本語に射影してみると、さらにおもしろいので時間のあるかたはやってみてください。