文学の名作を句読点のみに還元したアート、"Between the Words"
パブリックドメインになっている世界の古典の原稿からすべての単語を消し、ピリオドやコンマ、セミコロンに引用符、ハイフンといった punctuation、つまりは句読点のみにしたという画像をみました。
“Between the words” 「単語の間に」と名付けられたこの映像はデザイナーのNicholas Rougeuxさんの作成したもので、英語に必然的に登場する句読点のリズミカルな動きをアートにしたものです。
文章が残した痕跡
意味のない記号の羅列のようでいながら、ここには原文の言葉が爆風で消されたあとの痕跡のような、不思議な生々しさがあります。無意味のはずなのに、完全にランダムななにかにまでは至っていないのです。
たとえばヘルマン・メルヴィルの「白鯨」の冒頭は、「私のことはイシュメールと呼んでくれ」の語り起こしから、このようになっています。
メルヴィルは、とても長い、密度のある文章を生み出しますので複数の意味のある文節をセミコロンで分けることが多くなっています(欧米のひとでも使い方に悩むセミコロンについてのおもしろおかしい解説は Oatmeal でぜひ)。
書斎にあるペンギン・クラシックス版の “Moby-Dick” を引っ張り出してきてみました。
冒頭部分を丹念に記号だけおいかけてみると、たしかに、上の画像のようになります。
螺旋は上から始まり、少しずつ狭まりながら、中央に向かって作品は続いていきます。「白鯨」のように長い物語でも意外にこの程度の句読点しかないのですね。
本来は「読む」ことによってしか体験できない文学を、ほとんど無意味のぎりぎりにまで追いやってその時間性を奪い取って一瞬で見ることのできる作品しているわけですね。
サイトには、「白鯨」以外にも「不思議の国のアリス」「ハックルベリー・フィンの冒険」「高慢と偏見」のような作品がアートとなっていて、ポスターを購入することが可能になっています。彼はこうしてすでに世界にあるものをデータに還元することを得意技にしていて、他にもさまざまなデータアートが紹介されています。
データとデザインの交点が好きという人は、ぜひ注文してみてください。