二重振り子のアニメーションが教えてくれるカオス
これはもう、言葉の使われ方が不幸なのですが、物理系における「カオス」と「ランダム」な状態というのは、ふたつのまったく異なる状況を指し示します。
え? カオスというのは乱雑で予測が立たないことではないの? と思われるかもしれませんが、実はカオス的に記述される系は初期値のほんの小さな違いに対して未来の状態が大きく異なることをいいます。
これを美しい二重振り子のアニメーションで示した記事が、Fouriest Seriesにありました。
ほんの少しの違いが、未来を大きく変える
単純な振り子は、重りや紐や摩擦について若干の仮定をすれば、すぐに周期が決まる程度の簡単な問題です。しかし二重振り子は、結合した微分方程式を解かなくてはいけなくなり、その挙動はカオス的であることが知られています。
これが最初の時点での、ほんの少しの違いです。それが未来におけるすべてを変えてしまいます。
驚くほどすばやく、二つの二重振り子の違いはあきらかになります。重要なのは、このどちらも「ランダム」ではないということです。
初期条件を与えれば未来の振り子の状態は完全に予測可能なのです。しかし、初期条件が少し異なるだけで、その「未来」が大きく変わってしまうのです。
天気予報が外れるわけ
身近なカオスな例として挙げられるのが、天気の状態です。大気の動きはカオスですので、ある初期状態をコンピューターにいれて未来の状態を計算させればある程度の予測はつきます。これが天気予報です。
しかし問題がふたつ生じます。現実の大気はコンピューターに収まらないほど無限に複雑です。台風ほどのスケールから、梢を吹き渡る風に至るまで、すべてがつながった大気現象のすべてを記述するのは不可能です。つまりは計算モデルの不正確さです。
もう一つの問題は、いくらモデルを良くしても、そもそも最初に入力する値、初期値の観測値が不正確にならざるを得ない点です。観測地点はそれほど多くありませんし、海の上は大きな空白違いになります。つまり先程の「初期の違い」がいつでもふんだんに混じっているのです。
天気予報が外れるのは、こうした二重の不正確さがあるせいで、計算結果はある時間以降はカオスになってしまうせいなのです。
でも天気予報も最近ではずいぶんよくなっています。「どれだけすばやくカオスになるか」という指標を3日予報、5日予報、7日予報などについて描いた上の図ですが、年々指標が向上して、天気予報の当たり方が良くなっていることを表しています。
ところで、よくカオスに関係した「バラフライ効果」を「蝶の羽ばたきが地球の裏側の嵐さえ変えてしまう」という具合に説明することがあるのですが、それを「蝶でさえも世界を変えるくらいに大きな力がある」と理解すると、多少ミスリーディングということになります。
むしろ**「どこに蝶がいて、どんなふうに動いているか」という程度の小さな違いが、未来を正確に記述させてくれない**ということになるのです。蝶が能動的に世界を変えているわけではありません。
カオスはランダムではない。カオスは、未来を簡単に記述できないこと。そう覚えていただけるとわかりやすいかもしれません。