「僕の本当の名前はね...」とある駆け出しのミュージシャンの、最初のファンへの手紙
1967年の夏。イギリスで、一人の駆け出しのミュージシャンが新大陸から送られた手紙を受け取っていました。
その手紙はニューメキシコにすんでいる14歳の少女から送られたもので、彼女は地元のラジオ局の経営者だった叔父からプロモーション用のアルバムのコピーを受け取ったのでした。
「あなたの音楽はビートルズと同じくらいすばらしいわ」と褒めて、アメリカで最初のファンクラブを作りたいと書き送った彼女の手紙に、この若いミュージシャンは素直に喜びます。
そしてタイプライターに向かうと、次の無邪気な返事を書いたのでした。
1967年、9月25日
親愛なるサンドラへ、
ついさきほどマネージャーのオフィスに顔を出したら、僕は君からの、実にアメリカからの最初のファンレターを受け取ったんだ。あまりにうれしかったからすぐに返事を書くことにしたんだ。ケンがむこうで僕にはやく台本を書けとやかましいんだけど、それは wiat できる(まてよ、なんだこれは。いまのは新しい英単語で wait って意味さ)。
僕はアルバムについてアメリカからの反応がないかずっと待ってたんだ。そりゃあ、ビルボードとキャッシュ・ボックスには批評がのってるけど、それはプロの批評家のもので、みんなの意見はあまり反映していない。批評家はとてもおだててくれたんだけどね。彼らは「Love You Till Tuesday」のシングルさえ気に入ってくれてたみたいさ。アメリカ版のアルバムも手に入れたけど、どうも写真はきばんでいるね。僕はあそこまでブロンドではない。裏側の写真のほうが『僕』っぽい。同封するから気に入ってくれるといいな。
君の質問に応えると、僕の本当の名前は、デヴィッド・ジョーンズっていうんだ。なんで変えたのかは知らなくていいと思う。マネージャーは誰も名前で君を笑い者にしたりはしないよって言ってくれてる。僕の誕生日は1月8日で、身長はたぶん5フィート10インチだと思う。ここイギリスにはファンクラブがあるのだけど、アメリカでもそのうちできると思う。それについて考えるのは正直ちょっと早すぎると思ってるんだ。
いつかアメリカにいけるといいと思う。僕のマネージャーは彼が仕事をしているほかの人たちと何度も行ってて、いろんなことを教えてくれる。先日古い映画をTVでみていて、「頭金なし」っていうんだけど、あれがアメリカの実情ならちょっと憂鬱だね。でもその直後にアメリカの詩人のロバート・フロストの故郷のヴァーモント州で撮影されたドキュメンタリーをみていたのだけど、ずっと良かった。あれのほうが本当のアメリカっぽいのかもしれないね。僕はといえばつい先週初めての映画を撮ったんだ。たった15分のショートフィルムだけど、1月から始まる長いやつにむけていい経験になったよ。
親切にも僕に手紙を送ってくれてありがとう。ぜひまた書いてほしい。そして君についてももっと聞かせてほしいな。
あなたの親愛なる、
デヴィッド・ボウイ
そして英語の慣用句でいうように、その後のすべては歴史のとおりです。
アメリカでの輝かしい日々、彼が音楽の世界に残す足跡のすべてについてまだ知らない、なにもかもが未来に開かれた未知の大海だった遠い日の一瞬の断片です。
(via Letters of Note)