ホーキング教授と俳優ポール・ラッドが量子チェスで決闘。司会はキアヌ・リーブス。ええ、現実です
当代一の理論物理学者スティーヴン・ホーキング教授が、「アントマン」の俳優ポール・ラッドを相手に人類の未来をかけて量子チェスで決闘! というだけで、もういったい何をいってるのかわからないと思います。
しかし、その動画を80年代の思い出の映画「ビルとテッドの大冒険」のアレックス・ウィンターが監督し、キアヌ・リーブスが司会している、とまで言われるともう非現実感のほうが強くなります。これ、本当に現実なのだろうか?
もちろん本当のできごとというよりは、寸劇なのですが、そんな面白さしかない動画が、カルフォルニア工科大学の量子情報物性研究所の提供で公開されています。頭のネジを外して楽しんでみましょう。
そもそも量子チェスとは?
そもそも、量子チェスとはなんでしょう? 使うのはコンピューター上に再現された普通のチェスボードに、普通のチェスのピースなのですが、このゲームではピースはある特定の条件下で「量子状態」になるというルールが付け加えられています。
一般的によく知られているのは「シュレーディンガーの猫」の思考実験かもしれませんが、それと同じようにチェスのピースは触れられて「観測」されるまではある場所にいたり、別の場所にいたり、ピースの種類が定まらないという「状態」を複数もっているのです。この状態はどちらか片方だけが知っているというわけではなく、プレイしている両者にとって不明なので、有利にも不利にも、どう転ぶのかわかりません。
どうしてこんなゲームがあるのでしょう?
Why Quantum Chess? Conventional chess is a game of complete information, and thanks to their raw power and clever algorithms, computers reign supreme when pitted against human players. The idea behind Quantum Chess is to introduce an element of unpredictability into chess, and thereby place the computer and the human on a more equal footing.
なんで量子チェスなんてものがあるのか? 通常のチェスは、ボードのうえに全ての情報がそろっています。そしてアルゴリズムや高速な計算量を背景にコンピューターは人間を圧倒することが可能です。量子チェスというアイデアは、ここに不確定性の要素を持ち込むことによってコンピューターと人間の条件をそろえようという試みなのです。 (Quantum Chess)
不確定性が入ったからといって、じゃんけんほどにコンピューターと人間が互角になるわけではありません。不確定性はある条件の範囲内なので、それを織り込んだプレイが必要とされるわけで、それなりに戦略性があるのです。
ホーキング教授 vs ポール・ラッド
そんな理屈はこの動画が作られた説明にまったくなっていないのですが、動画のなかでは未来の人類の歴史の方向をかけて二人が量子チェスで戦うという設定になっています。いわゆる寸劇なのですが、とにかくキャストが豪華すぎます。
また、スター・ウォーズや、さまざまなSFネタ、ウェブのネタへの言及も多くて、知っている人はくすっと笑えるはず。量子状態、量子もつれなど、わかったようなわからないようなキーワードが飛び交いますが、気にすることはありません。ただ、見て楽しみましょう。
この動画を制作したのは?
この動画を制作したのは Institute for Quantum Information and Matter と Trouper Productionsですが、さる1月に One Entangled Evening という、リチャード・ファインマン教授の偉業をたたえる科学とエンターテイメントのイベントがあり、この動画はその催しの一部として制作されたのだそうです。
「科学を一般に広める」ということはもう科学の現場の誰もがあきらめがちなほど叫ばれていることですが、こうして純粋に科学的遺産を讃え、エンターテイメントの夕べにしてしまうというのもよいのかもしれません。アメリカにいたなら是が非でも参加したいイベントでしたね。
ファインマン教授は個性豊かな学者として、スペースシャトル・チャレンジャー号爆発事故の調査委員として、その活躍が知られる、物理学のアイドル的な存在でもあります。以下の書籍や回顧録は抱腹絶倒の面白さですので、ぜひ手にとってみてください。
あー、「ファインマン物理学」も久しぶりに読み返して物理の世界で遊びたい!