小説版の「スターウォーズ・フォースの覚醒」で理解できる、いくつかの謎
タイトルから自明な通り、本記事は現在上映中の「スターウォーズ・フォースの覚醒」のプロットに関する言及、いわゆるネタバレがある記事です。
子供時代にエピソード IV、V、VI で育った人ならばこの感覚は当然だと思いますが、映画「スターウォーズ」には映画の作中ではほのめかされるだけのバックストーリーが膨大にあります。それは旧三部作では小説という形で紹介されていましたし、その後は Expanded Universe (EU) シリーズの小説やアニメといったコンテンツで語られてきました。
今回の新作では EU シリーズの物語は基本的にパラレルワールドということで棄却され、旧三部作から直接続く新しい物語が展開していますが、それについても Alan Dean Foster による小説版が登場しています。
プロットは映画に忠実なものの、小説であるがゆえにここではさまざまな、映画では盛り込みきれない、表現しきれない情報が開示されています。それについて Mashable で 27 の項目にわけて紹介する記事がありました。
27 ‘Star Wars: The Force Awakens’ questions answered by the novel | Mashable
そのすべてが興味深いわけではないのですが、映画をさらに深く楽しむ上で、もう一度見にゆくうえで「おや」と思った部分について紹介したいと思います。
謎その1:「ジェダイの帰還」で反乱同盟軍は勝たなかったの?
映画が始まったとたん、まるでエピソード IV がこれから始まるかのようにスター・デストロイヤーが現れますので「反乱同盟軍は勝ったのではなかったの? だったらこれは旧帝国軍なの? それとも違うもの?」という疑問が沸き起こります。
映画の作中ではほのめかす程度でしたが、小説ではさらに明確に「ジェダイの帰還」のあと反乱同盟軍はたしかに帝国を打倒し、新たな共和制を打ち立てたことが明記されています。現代らしい情報の開示の仕方ですが、ゲームである Star Wars Battlefront 内では「ジェダイの帰還」のラストから一年後に行われた帝国軍の残党とのジャークでの戦いがプレイできるフィールドとして提供されています。新しい映画の始まりで、砂漠にあれだけのスター・デストロイヤーの残骸が散らばっているのは、三十数年前にそこが戦場だったからというわけです。
帝国軍の残党が完全に滅ぼされたのか、それとも停戦したままだったかは多少曖昧に描かれていますが、小説ではファースト・オーダーが共和国の無策のなかから生まれたことがレイアの独白から読み取れます。
Those who had led the rebellion had under-estimated the deeply buried desire of far too large a proportion of the population who simply preferred to be told what to do. Much easier it was to follow orders than to think for oneself. So everyone had argued and debated and discussed. Until it was too late.
反乱を率いた者たちは、いかに多くの人びとが、どれほどまでに深く、他者のいいなりになる生き方に充足しきっていたかを過小評価していた。自ら考えるよりも、命令に従うほうが楽なのだもの。だから全てのひとは言い争い、議論に、討論に明け暮れた。手遅れになるまで。
このあたり、どのようにして帝国軍の兵器などが残されていたかといった詳細は断片的に散らばっていますが、次作でさらに詳細に語られることになるのかもしれません。
謎その2:ファースト・オーダーは作中であれらの星に攻撃を加えたのか?
映画のなかでは、唐突にファースト・オーダーが共和国に宣戦布告を行い、スター・キラーによる攻撃が宇宙を切り裂きましたが、どうしてこれらの星、ホス星系に攻撃が加えられたのかの説明はありませんでした。
小説版ではここで議会が集まっていたこと、そしてファースト・オーダー側の策謀が描き出されています。
“The Republic. Or what its fractious proponents choose to call the Republic. Their center of government, its entire system. In the chaos that will follow, the Resistance will have no choice but to investigate an attack of such devastating scale. They will throw all their resources into trying to discover its source. So they have no choice but to investigate fully, and in so doing…”
“Reveal themselves.”
「あの脆弱な支持者たちが共和国と呼んでいる、その政府の中心がある星系全体に攻撃を加えます。混乱のなかで、レジスタンスはこれほどの規模の攻撃について調査を行わないわけにはいかないでしょう。彼らはそのもてる力を結集してやってきます、そうすれば」
「彼らは一網打尽というわけか」
でもこうなると、レジスタンスって、何に対してレジスタンスしているのでしょうね? 旧三部作の反乱軍はレジスタンスではなく Rebel Alliance でしたから、このあたりの成立の経緯も今後の映画で語られるのか気になります。
謎その3:指導者スノークはどのくらい以前からいた存在なの?
映画ではとりあえずヴォルデモート卿のように見ただけで「あ、悪役だ」とわかる風のスノークですが、どこからやってきたのか、どのような存在かは謎に包まれています。小説では、スノークが旧三部作の帝国以前からいる存在だということが短く表現されています。
“Kylo Ren, I watched the Galactic Empire rise, and then fall. The gullible prattle on about the triumph of truth and justice, of individualism and free will. As if such things were solid and real instead of simple subjective judgments. The historians have it all wrong. It was neither poor strategy nor arrogance that brought down the Empire. You know too well what did.”
「カイロ・レンよ。私は帝国が興り、そして倒れるのを見た。信じやすい輩は真実と正義、自立と自由意志などといったことについて、それが確固たるものであるかのように吹聴したがるようだが、そんなものはまやかしだ。歴史家たちは間違っている。帝国を滅ぼしたのは戦略の誤りでも傲慢のためでもなかった。お前ならその理由がなんであるかわかるだろう」
また、小説中ではレイヤが息子であるベンに対するスノークの影響を知り、それをハン・ソロに相談せずに解決しようとしたくだりも書かれています。この二人、ちゃんと結婚していたんですね。
謎その4:「あのシーン」のあと、カイロ・レンの心中はどうだったのか?
「あのシーン」がなんであるかは見た人には自明だと思いますが、面白かったのは一部のファンの間で、カイロ・レンはスノークを倒すために暗黒面に寝返ったふりをしているのではないかという説が論議された点です。たしかにそれはそれで魅力的なプロットではあるのですが、いまのところその可能性は低そうです。
Stunned by his own action, Kylo Ren fell to his knees. Following through on the act ought to have made him stronger, a part of him believed. Instead, he found himself weakened.
自らの行った行為に愕然としてカイロ・レンは膝から崩れ落ちた。この行為によって彼は強められるはずだった。しかしそれに反して、彼は非力な自分をみつけたのだった。
新世代のための、新しいスターウォーズ
Mashable の記事のうち、特に映画を見る上で深みをもたらしてくれそうなものだけを選んで紹介したのですが、もちろんそのどれについても知らずにみても映画を楽しめることはいうまでもありません。
今回、旧三部作、特にエピソード IV をモチーフにしながらも、新世代のためのスターウォーズに仕上がっていてことに心からの賞賛を送らずにはいられません。
たとえば、アイコニックな最強の悪役であるダース・ベイダーの不在において悪役をどのようにするかという問題に対しては、これから生まれようとしている新しい悪、カイロ・レンと、フォースに覚醒しようとしている新しい主人公を対置させているのが見事でした。二人のライトセイバーの戦いはお世辞にも優雅とはいえませんでしたが、それもそのはず、二人のジェダイとしての完成はまだ先だからです。
どこかヘタレなフィンの存在や、その尻をけとばす勢いの女性の主人公、ラスト近くで女性同士が抱きあうシーンに象徴されるような、旧世代のスターウォーズでは見られなかった演出は、映画としての進歩を感じさせます。
その一方で、以前と変わらない安定感のあるチューバッカの存在感や、ミレニアム・ファルコンといったメカが存在論的支柱になっていて、映画としてのモチーフは以前のままなのに新しい作品になっているというのは、年が過ぎ去るのも悪くはないとしかいいようがありません。
スターウォーズは、映画というよりも、映画というフォーマットから始まってその枠を越えた歌舞伎のような独特な世界だといってもいいでしょう。歌舞伎も演目は受け継がれ、物語は繰り返されますが、そこには時代とともにゆるやかに加えられる解釈の変化、受容の変化があります。
新しく始まった三部作が、新しい世代に受け入れられて、私たちのようにこの映画とともにそだった世代を越えて受け継がれてゆくのかは、主人公たちの命運と同じくらい興味があります。
まずは小説についてはKindle、あるいは Audibleによる音声版がありますので、こちらで復習しつつ、映画はさらに2回ほどみたいですね。
(Image: Lucusfilm Ltd.)