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8冊目:「ワインバーグの文章読本」ジェラルド・M・ワインバーグ著

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「考える技術・書く技術」と聞いてバーバラ・ミントと答えるか、板坂元と答えるかでまったく違う流派に属するように、知的生産や文章作法の流儀にもさまざまあります。

この手の本を好物にしている私が隠れて楽しんでいるのが、日本における知的生産のノウハウと、欧米のそれとを比較することです。なぜなら、文章を書いたり、創作をしたりといった行為は同じでも、アプローチが、ツールがまったく異なることがままあるからです。

逆に、アプローチが違っても、根の部分で同じものを追求していることもあります。その意味で、ジェラルド・M・ワインバーグによる “Weinberg on Writing” (邦題「ワインバーグの文章読本」)はとても興味深い事例です。

膨大な警句と、石のメタファー

欧米の学校で学ぶ作文の多くが、「テーマを決めよ」「サブテーマを決めよ」「段落に至るまでブレイクダウンせよ」という形式で教えることが多いのに対して、ワインバーグの手法は語るに足る印象深いアイデアを収集して、それを並べるという基本姿勢をとります。

自分にとっての面白さと、語った時のインパクトがあくまで優先なのです。これをかれは Fieldstone 「路傍の石」と呼び、散歩をしていて形の良い石を見つけると思わず拾うように、世界に無限にあるこうしたアイデアの石を集めることから、自身の手法を Fieldstone method と名づけています。

読んだ本から安全に引用して「石」を得る方法、記憶から「石」を生み出すほうほう、「石」を収集しておくためのシステムについて、本書では多くの警句と、実際的な練習課題で読者を導いていきます。

初めて文章を書こうとする人が直面する問題として、それまで安心して書くことができていた量を越える文章をかくときに構成が崩壊してしまうというものがあります。段落を作ることができても記事をまとめることができない。ブログ記事を書けても、それを総合した論説の長さを、書籍の長さの文章を書けない、などなどです。

ワインバーグはこうしたハードルを、集めた石を並べ、合わないものを捨て、一つの石積みの壁や家にするというメタファーで読者に解説していきます。そのアドバイスはときとして文章それ自体とは関係のない、それでも重要なディテールにまで及びます。たとえば「メガネを外して段落をみてごらん。見た目が汚いなら、なにかが多すぎる」といったようにです。

アドバイスのほとんどは英作文のためのものですので、日本語に置き換えて考える必要はあるものの、ある程度抽象的なアドバイスの割合がおおいので、参考にはなります。

日本の知的生産との違い

面白いのは、実際的なアドバイスにあふれる本書も、それほどツールや、技術といった話題には入ってゆかない点です。

日本ならば「石」を記録するための情報カードの話題になったり、情報整理の話題になるところですが、このあたりがワインバーグ氏の個性であり、欧米の知的生産テクストとの違いだともいえるのです。スティーブン・キングの文章読本でも、同じことを思った人は多いのではないでしょうか?

それでも、この本は欧米で多くのライターを育成してきたスタンダードな本の一冊で、読むに値するアドバイスにあふれています。ただし、アドバイスはアドバイスに過ぎません。実際にそれを適用しようとする時に、「石」は思いのほか重く、思うがままに角を丸めることも、隙間に収めることもできないということに気づくでしょう。

それが、ワインバーグ氏の本当の狙いなのかもしれません。

堀 E. 正岳(Masatake E. Hori)
2011年アルファブロガー・アワード受賞。ScanSnapアンバサダー。ブログLifehacking.jp管理人。著書に「ライフハック大全」「知的生活の設計」「リストの魔法」(KADOKAWA)など多数。理学博士。

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