[英語メモ] complicit、あるいは見てみぬふりをすることは共謀という名の罪であること
Dictionary.com が2017年の言葉として、ことし検索回数が大幅に増え、社会的にもその利用が広まった単語、“complicit” を選んだというニュースが入ってきています。
しかしこの complicit という形容詞は、文章のなかで使うときにはちょっと奇妙な挿入のされ方をするので、意味がわかりにくくなっています。
通常は、“complicit in” という具合に、“in” をそえて、“He was complicit in a comspiracy” といったように使って「彼は陰謀に与していた」の「与していた」の部分を担います。
しかしなぜ、この言葉は今年大幅に検索回数が増えたのでしょう?
だれかが、なにかを、たくらんでいる
今年、この言葉が急に検索されたのは3月に Saturday Night Live のスキットのなかで、スカーレット・ヨハンソンがイヴァンカ・トランプ役として登場し、金色の無駄にきらびやかなドレスに “Complicit” という名前の香水をつけていた演出がされたときでした。
このときの風刺のきいた表現が、“She’s beautiful, she’s powerful, she’s complicit.” 「彼女は美しい、力をもっている、そして complicit だ」というものです。
ここでの complicit の使い方は謎めいています。ここでほのめかされているのは、彼女の力が、彼女自身から来ているのではない、それは陰謀なのだという雰囲気についてです。
そしてその背景とはもちろん、選挙を通して選ばれたわけでもないのに、父であるドナルド・トランプ政権におけるさまざまな政治判断に自分自身を差し挟む「共謀者」としてのイヴァンカとジャレド・クシュナー夫妻への風刺なのです。
10月にはJeff Flake議員がトランプ大統領を厳しく批判しつつ「私は complicit にはならない」と言った例もあります。この場合は、「私はお前の一味にはならないぞ」くらいの意味として解釈するのでよいでしょう。
Don’t be complicit
そして今年、大きく広がりを見せることになったもう一つの使い方に “don’t be complicit” という言い方があります。もちろんこれは、“don’t be complicit in ◯◯” とあとに続く言葉を省略した言い方なのですが、文脈が明らかな場合には「あなたはその問題の一部にならないで」と訴える意味になります。
これはハリウッドの名物プロデューサーのハービー・ワインスタイン氏がセクハラで告発され、それにともない多くの女性がさまざまな場面でのハラスメントの実態に対して声を上げ始めた頃から使われ始めた用法です。
ここでの complicit という言葉は、ハラスメントを体験したり、目撃したのに声を上げないことによって問題を隠蔽してしまうことは、共犯になっているに等しいという厳しい(ときと場合によっては厳しすぎる)指弾の際に用いられる言葉です。
また、大きな権力をもった人がおこなう横暴を見てみないふりをしている人々に対して、「沈黙は、共犯であるということだよ」と呼びかける声でもあります。
つまり、この言葉が今年大きく伸びたのには、それまで抑圧され、声を失っていた人々が社会のさまざまな場所で声を上げ始めたことが背景にあるわけです。
まだ、いまはその痛みが広がっている段階といっていいでしょう。隠されていた痛みがすべて出しつくされるまで、そしてそれを生み出した人々が、自分の非を認めて社会が変わるまで、この単語に休む間はないのです。