フジシマサッコ個展「これまでと、これから」つくばで30日まで開催中
工場、配管、そして埋め尽くされることで意識される空間の実相。以前も紹介しました画家、フジシマサッコさんの個展「これまでと、これから」がつくばで開催されていましたので、会期が半ばも過ぎた週末、ドライブもかねて拝見しにいきました。
実はわたしは筑波大学出身で、生命環境科学研究科というところで博士号をとりました。つくばには大学から大学院まで14年もいましたので、どんな小道もなつかしいふるさとのような場所です。
フジシマサッコさんは現在、筑波大学・人間総合科学研究科・芸術専攻の学生さんということで、製作と論文に忙しくしておられるとのことで、才能ある後輩の活躍は眩しく、心強いものがあります。
空間の意識のされ方に、これまでと、これからが
ギャラリーにはいるとまずそそり立っているのが最初の写真のこの作品です。身長をこえる高さと、視界におさまりにくいほどの幅をもった工場が、みえない消失点にむかってからみあっています。
こうして写真でみてもほとんど意味はなく、やはり作品のまえにたって、どこに目を走らせるのか、どこに視線が吸い込まれるのかを体験してはじめて楽しめるのが、こうした巨大な作品の良さです。
サッコさん本人が「いつまでも描いていられる」とおっしゃるほどに自己増殖的な管また管が、空間を狂奔して埋め尽くしているようすは、臓器のようであり、文明の絶頂のようでもあり、どこに目をやるかで心持ちがかわります。
こちらの作品は先程とおなじようにみえますが、パースがさらにわかりにくくなっていて、こちらが手前、こちらが奥、こちらが上でこちらが下といった区別がつきにくくなり始めていてより幻想的に仕上がっています。
許可を得て、アップも撮影されていただいたのですが、ある配管は上から見下ろしているのに、そのとなりの別の配管は下から見上げているという具合に、空間いに関する約束ごとが破られているのも、この目眩のような感覚の源です。
この個展のだいめいは「これまでと、これから」ですが、この短い期間のあいだにもサッコさんの空間の捉え方に不思議な変化が及んでいる気がして、そうした空間把握の違いをみるだけで楽しいものがありました。
こちらの作品、どうして空の側から配管が生えているのだろうか、どうして菜食のされている場所とされていない場所があるのだろうかという問いがうまれますが、全体には、複雑系からうまれるパターンがたいていそうであるように細部がささえるマクロな安定感があります。入道雲とか低気圧もこんな感じですよね。
前回は写真でのみみていた配管をモチーフにした作品の一部も展示されていて、やはり実物の存在感は落ち着きました。そうなんですよ。工場や配管って、なぜか心を落ち着かせるのです。
そこに、先ほどまでの作品のように色合いによって生命が吹き込むことも、こうしたおちついた表現で静けさや畏怖と与えることもできるわけです。
現在の制作のようすも少しだけ見せていただきました。作業はまだまだこれからとのことでしたが、今後この配管が空のような空間にまで伸びるのでしょうか。それともここはこのままなのでしょうか。
学生のためのギャラリー
今回、個展がひらかれていたのはつくば市二ノ宮にある「スタジオ’S with T」で、地元の関彰商事が、筑波大学の芸術の学生専用に開放しているスペースなのだそうです。
私が大学にいたころは、芸術専門の学生さんたちの制作を目にすることはあまりなかったので、こうして大学から少しはなれた場所に、市民の目に触れやすいスペースを作ったのはとても意義深いと思いました。
今回の個展の最終日、30日にはフジシマサッコさんと、その横で制作をしている當銘弓佳さんの対談イベントも予定されているとのことですので、TXでつくばに足をのばしてみてはいかがでしょうか。
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フジシマサッコ個展 「これまでと、これから」
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会期: 2016年10月30日まで。10:00〜16:00。最終日は15:00まで
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会場: スタジオ’S with T 入場無料