車が「意識」を持ってゆく。日産がブリコラージュの思想で作ったAI時代のコンセプトカーが展示中
桜も満開でお出かけ気分が盛り上がる季節ですが、横浜方面に行く機会のある人は、ぜひ横浜駅から直結で歩いていける日産グローバル本社ギャラリーに立ち寄ってみてください。
コンコースから一望できるこちらのギャラリー部分では、4月7日までの平日と、4月8-9日に「ヘリテージカーへの乗り込み体験」で「ダットサンブルーバード1200デラックスDP410」に乗車することができます。
ダットサンブルーバードとしては2代目、1963年に登場した車ですね。おそらく目にすることもめずらしい、ましてや乗車できる機会はそうそうないクラシックカーです。
ほかにも、乗車はできないのですが、ダットサン・フェアレディ1500(1962年)も。この赤は目に焼き付きます。
また、時代は平成に移り、1991年に発売された2ドアクーペ「フィガロ」も。これはかわいい。
周囲には現在販売されている日産「アリア」や「サクラ」といった車両もあって、乗り込むことができるものも多いので、ちょっと立ち寄るだけでもかなり楽しめます。
4月2日まで展示の「コンテンポラリー ライフスタイル ビークル」
その会場の一角に、4月2日までの展示になるのですが「コンテンポラリー ライフスタイル ビークル」というプロトタイプカーが紹介されているコーナーがあります。他が目立っているので少し地味なのですが、これが見れば見るほど妙な展示になっているのです。
どれだけ変な車かというと、この短い動画をみていただけるとわかります。スカイラインをベースにしていますが、そこら中に妙なギミックが仕込まれています。
たとえば「サイドミラーがゴミ箱になっています!」からスタートしますので、もうこの時点で「???」となってしまいます。
運転席に折り畳めるテーブルや、スマートフォンホルダーなども。
フルフラットのベッドに枕、ブランケット収納やハンガーなども。セダンなのに? キャンピングカーみたいなことになっています。
バンパーの下にもゴミを入れられる収納が。ゴミ箱多いな!
極めつけが、スクリーンを展開し、モバイルバッテリーをつないで投影できる屋外シアタープロジェクターとスクリーン。
「どやああああ!」という感じで紹介してくださっていますが、見ている側としてはとても戸惑います。「どういうことなの?」と(笑)
センサーとAIが車に人格を与える
このプロトタイプカーについて、このイベントについてお誘いしてくださった日産のかたに話をうかがったところ、これは「ブリコラージュ」つまりは「寄せ集め」の発想で作られたものなのだということでした。
「ブリコラージュ」は、理論的なコンセプトから導かれる「設計」とは対照的な概念で、既存のものを当てはめて新しいものを目指します。新技術を新しい車の軸にするのではなく、すでにあるものを有機的につないで新しいものを作っているわけです。
セダンというと、隅から隅まですでに用途や設計思想がはるか昔に固定化していて、なにも付け加えることができなさそうですが、それをあえてシェイクアップしてみます。たとえばベッドにならなさそうなところをベッドとして活用してしまう。
ドアミラーとウィンカーという機能からみると、内部は無駄な空洞であるところを小さなゴミ入れにしてしまう。
どこにも聖域を設けずに、すべての場所の機能を解釈し直して、固定化されていた意味に新しい機能を寄せ集めで載せていきます。まさにブリコラージュです。
しかしここで面白いのが、日産のかたの話によれば、ゴミ箱であれ、リクライニングのシート部分であれ、すべての場所にセンサーが組み込まれることが前提になっているという点です。
車は、ゴミがあるのかどうか、いま人間は横になって眠っているのかどうか、キャンプ地のような行き先に到着しているのか、いまから帰ろうとしているのか。そういった、人間が車のうえでなにをしているのかという文脈 = コンテキストを常に把握しているのです。
それが、動画では最後に数秒だけ表示される、AIのコンシェルジュアプリのような「AIアシスタント SORA」と通して人間にフィードバックされていることが軽くほのめかされています。「ゴミ捨て忘れてませんか?」と。
よくよく考えてみると、これは車を単なる道具から、自分がどこにいるのか、なにをしているのか、どういう状態にあるのかを把握している生物のようなものに発展させていることに他なりません。
そして自分の置かれた環境がわかっている車ですから、人間に対して質問してくるのです。「忘れ物がないですか」「もうそろそろお帰りですか」「そろそろお休みをとられてはいかがですか」といったようにです。
つまり自動運転が実現してさらに未来には、車は仮想的な「意識」を持った「生きている」存在として、人間のために環境を作り出すようになるというコンセプトがさり気なく取り入れられているともいえます。
たくさんのギミックが目くらましになっていますが、その奥には存在することをユーザーが意識すらしないAIとセンサーが、車という環境を人間のために維持しているのです。
もともと、このこのプロトタイプカーの発想の原点には、昭和の最後に「食べる」「寝る」「遊ぶ」をキーワードに登場したセフィーロがあったといいます。
その後、素直に環境としての車といえばキャンピングカーみたいなものもだいぶ発展したわけですが、このスカイラインのプロトタイプはAIを通してそれを再定義しているともいえます。
奇妙ですし、わかりにくいし、あまりにさり気なく提示されているので誰も気づかないのではないかと思うのですが(笑)
話によればこの「コンテンポラリー ライフスタイル ビークル」を起点に今後もさまざまな提案が控えているということですので、しっかり追ってみたいと思います。
展示は4月2日までですので、ぜひ訪問していただければ!